事例1:自分の表現に役立てる鑑賞文の読み―「神奈川沖浪裏」を参考に浮世絵の鑑賞文を書く- (中2) 2018年掲載
実践の概要
教材の設定
本単元は「神奈川沖波裏」という教材を「書く」ために読み、効果的に鑑賞文を「書く」ことをねらいとし、以下のような教材を準備した。
- 赤瀬川源平著「神奈川沖浪裏」(鑑賞文)
- 四枚の浮世絵〈鑑賞文を書くため〉
葛飾北斎作「富嶽三十六景」より①「凱風快晴」②「駿州江尻」
歌川広重作「江戸名所百景」より③「おおはしあたけの夕立」④「亀戸梅屋敷」 - 2の絵に対する専門家の四つの鑑賞文「名画読本」日本画編
「赤瀬川源平が選ぶベスト百景」(以上二つは赤瀬川源平著)
学習の流れ
- 浮世絵と北斎について知る。赤瀬川氏の鑑賞文を読む。
- 自分の表現に役立てる文章の特徴や筆者の工夫を読み取る。
・作者の意図
・効果的に表現するための工夫や特徴 - 読み取ったことを役立てて、プロの鑑賞文に迫る文章を書く。
・「読みの観点」を活かす書き方の確認。
・絵を見て気づいたことを書き出し、表現や構想を考える。(書くための準備)
・鑑賞文を書く。(400字~600字以内) - 他の人の作品と交流し、自分の文章をふりかえる。
・同じ絵について書いたクラスメートや専門家の鑑賞文を読み、感想を書く。
本校の研究開発の新設教科「コミュニケーション・デザイン科」と関連した授業のポイント
- 3の書くための準備に、絵に書き込みを入れたり、書くことを整理するためのシートを用意したりして書くまでの道筋や書こうとする内容が視覚的に認識できるようにした。
- 書いた後、他の生徒と読み合いコメントを書き合ったり、自分の書いたものと同じ絵の専門家の鑑賞文を読んで比較したりして、内省(メタ認知)の機会を設けた。
単元を終えて
普段まとまった量を書くのがあまり得意でない生徒も、読みの観点を活かそうと、絵をよく観察し、特徴を具体的に説明したり表現を工夫したりという様子が見られ、まとまった量を書けていた。具体的に参考になる文章―モデルーがあること、書く前に条件や書き方を具体的に明確に示し、文章を書く準備を整えておくことによって、意見を述べる文章が比較的書きやすくなるのではないかと考えられる。
赤瀬川さんのすぐれた鑑賞文に触発されたかのように、表現に工夫を施した、切り口の面白い文章や、同じ絵で書いていても捉え方・視点が違っている鑑賞文も多々あり、作品を読み比べるのが楽しいものであった。また、専門家の鑑賞文と自分のものを比べるのは、酷な感じもしないではないが、生徒達はそこは相手がプロだと割り切って、冷静に客観的に自分の作品と比べることができていたようだ。同じ題材で書いたからこそ、優れた鑑賞文のどこが具体的にいいのかが、ただ読んだだけよりも明確に見えてきていることが窺える感想が多く見られた。研究会では 絵の鑑賞文として 自由な発想をどこまで許容するのか、ということが検討を要する課題として話題に上がった。
事例2:17音の世界~俳句で楽しむ日本語~(中2) 2019年掲載
実践の概要
〇単元の設定と目標
俳句という詩歌の力を「美しく豊かな日本語を育んでいく」柱として考え、単発的にでなく、3年間を通じて系統的に扱う教材として、帯単元や小単元で継続的に少しずつ俳句になじんでいくようにしている。そうした学習環境の中で次のようなねらいで本単元を設定した。
①日本の伝統的詩歌を学ぶことで言葉の背後にある文化や日本語の感性に触れ、豊かな言語生活を育む。
②定型という制約の中で言葉の使い方・言葉の精選をすることで言葉の力を磨き日本語の力を高める。
③俳句という伝統的詩歌に親しむと同時に、季語に反映される自然と関わる生活環境へ目を向ける視点を育てる。
〇学習の流れ
1 俳句に親しむ 「名句が迷句」をテーマに俳句のマッチングや虫食いゲーム等で俳句に慣れ、季語の働きや表現を意識する。
2 俳句を詠む 季語「小春日」の持つ特性を確認し、イメージマップを使って身の回りから見つけた句材から句をつくり投句する。
3 句会を楽しむ 前時でつくった俳句で句会を開く。一人一人が選者として選んだ句について「褒めコメント」の句評を述べる。
〇今年度の研究テーマ「一人ひとりを支える・生かす・伸ばす」視点からのポイント
● 論説文や小説の読解や普通の文章を書く場合と比べ、俳句とつくり、句会を開いて鑑賞し合うことは、帰国生徒を含め生徒たちの言葉の力の差異を超えたところで、楽しく言葉を学び、力をつけていく場を設定でき、日本語の特有の言葉の豊かさを育んでいく上で有効である。(単元名にもそうした願いを込めている)
● 俳句そのものが鑑賞・表現の両面に渡って感性や発想に多様な広がりを有する文学であるため、生徒の個々の多様な感性も生かす学習となり、言葉の力と感性を伸ばしていくことが期待されるものといえる。
● 今回は季題を「小春日」と統一したもので全員が俳句を創るという形をとって、上記の俳句という文学の持つ多様性を生徒自身がより認識しやすくした。