小5「ものの溶け方」

お茶の水女子大学附属小学校 田中千尋

(1)「ものの溶け方」で考えさせたいこと

5年「ものの溶け方」の単元で考えさせたいこととして、指導要領では以下の3点をあげている。

(ア)物が水に溶ける量には限度があること。
(イ)物が水に溶ける量は水の温度や量,溶ける物によって違うこと。また,この性質を利用して,溶けている物を取り出すことができること。
(ウ)物が水に溶けても,水と物とを合わせた重さは変わらないこと。

(ア)は、100g (mL) の水に、食塩をどんどん溶かしていって、35g前後で限界が来る・・・という実験で理解できる。実は限界が来るよりも前に、いくら撹拌をしてもなかなか完全に溶解しなくなる、というのが本当である。
(イ)は、ホウ酸やミョウバンなら、温度差による溶解度差を利用した再結晶、食塩なら蒸発による再結晶で、容易に理解できる。特に、顕微鏡を使った再結晶の一瞬は、ぜひとも教科書に載せてほしい実験だ。

「ミョウバンの再結晶の一瞬」 顕微鏡で見ると、透明な溶液の中から、まるで宝石が生まれるように、結晶が成長する様子が観察できる。

(ウ)は意外にむずかしい。100g (100mL) の水に30gの食塩を投入して、よく撹拌すると、130gの食塩水になるはずである。しかし、実際にビーカーで実験すると、なかなか理論値通りの結果が得られず、軽くなってしまうことが多い。撹拌時に遠心力で水がこぼれる、撹拌棒を拭いた時に重量が減る、時間がかかって水が蒸発する・・・といったことが原因だ。
私はLG-21(乳酸菌飲料)の容器を使っている。容量も120mLと手ごろで、気密性も完璧なので、溶解の実験に非常に適している。よく洗ったこの容器に、水100gと食塩30gを入れて、蓋をきっちり締める。その後、蓋を下にして、容器をゆすって撹拌すると、ほぼ確実に食塩全量を溶解することができる。

 

上右の写真は、左が30gの食塩を入れて溶解したあと、右が食塩を入れる前である。容器の重さ(蓋を入れて11.8g)をひくと、食塩水は正確に130gとわかる。かさ(体積)も、明らかに増えている。これらの事実は、子どもにとって、純粋に驚きとして受け止められるようだ。一連の子どもの活動、観察、思考の流れは以下のようになる。

①水に食塩を入れて溶解した。
②食塩水は食塩と水の重さをたした重さである。
③かさ(体積)も明らかに増えている。
④しかし、入れた食塩のかさの多さ(だいたいこの容器1杯分のかさがある)に比べて、増えた食塩水のかさの増え方が小さい。
⑤溶解前の水の容器に水を足して、食塩水と同じかさにして、持って比べると、ずっしりと重い。
⑥溶けた食塩は、見えなくなったけど、水の中にあって、それが溶液を重くしている。

(2)水溶液の濃さと重さ

「同じかさ(体積)なら、水よりも濃い食塩水のほうが重い」という事実は、さまざまな方法で検証することができる。完全に同じ大きさの容器に、気泡が入らないようにして、水、・食塩水をそれぞれ入れて、それを水槽に同時に入れる・・・水のほうは浮かび、食塩水のほうは沈む・・・このあたりが定番だろう。

 

上写真は、食紅(緑)で染めた水の下に、赤く染めた濃い食塩水が沈んでいる様子である。この状態で、丸一日置いても、境界線はほとんど変化しない。視覚的にも、非常にわかりやすい現象である。私はこれをLG-21の容器で、子どもたちにも試させてみた。
色のついた溶液は3種類、子どもたちの目の前で、私が調整したものを使うことにした。緑が水、赤がやや濃い食塩水(水100g+食塩15g)、青が非常に濃い食塩水(水100g+食塩30g)である。
容器に入れる順番や入れる方法は、子どもたちに任せてみた。多くは、軽いと思われる水から入れて、その下に順に濃い食塩水をスポイトで入れる方法をとっていた。

 

中には、濃い(重い)食塩水から入れて、その上にガラス棒を使って、薄い(軽い)食塩水を足す方法を試す子どももいたが、やはり、スポイトを使ったほうが明瞭な結果が出るようだ。
慎重に実験を進めると、うまく3色の層が現れて、子どもたちから歓声があがった。しかし、このままでは、本当に「濃さによる重さのちがい」を確かめたことにはならない。より重さのちがいを実感させるには、この先の営みが大切である。

(3)濃度ストライプを作る

食塩水の濃度差によるストライプ(層状の模様)は、ビーカーでの実験でも容易に確認できる。しかし、LG-21の容器を使うと、更に確実に実感できることがわかった。
できた「濃度差ストライプ」を、子どもたちがゆっくりと揺らす行動が見られた。
「揺らしても、色が分かれたままで崩れない!」
「わぁ、斜めにしても、色の帯がきれいなまま!」
「すごい!ぜんぜん混ざらないよ!」

 

これは子どもたちにとって「小さな新しい知との出会い」であり「小さな学びの渦」ができた一瞬でもある。こうした学びの渦は、あっという間に学級全体に伝わる。教室のあちこちで、LG-21の容器を、ゆっくり回転させる子どもたちの姿が見られた。

 

ついに、容器を真横にしても、そのまま美しい帯が崩れなかった。これはビーカーでは絶対にできない実験で、密閉された容器でこそ可能な観察である。
子どもたちは、更に回転に挑み、ついには完全に逆さまにすることにも成功した。濃い食塩水は重く、容器の上下を逆転させても、順位は変わらないことを、はっきりと実感できたようだ。
子どもたちは「これ、持って帰りたい!」と言い出した。特に危険はないので、中身を口にしないことを条件に、許可した。どうやって持って帰るのだろうと思ったが、放課後、そーっと持ち帰る姿が見られた。
一方で、できあがった美しいストライプを、あえて撹拌して完全に混ぜ合わせてしまう子どもも見られた。「こうやって持って帰って、家に置いとくの。そうしたら、また色が分離するかな?」これも新しい問いである。楽しい活動だった。

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