小5「エアコンフィルターに学ぶ」

お茶の水女子大学附属小学校 田中千尋

(1)エアコンフィルターのほこり

本校の教室には、大型のエアコンが設置されている。実験観察室(理科室)にも2台のエアコンがあり、冬の寒い時期や、夏の蒸し暑い時期には、能率的に授業を進められるので、大変助かっている。先日、実験観察室の暖房の効きが急に悪くなったので、フィルターの掃除をすることにした。

 

エアコンは高所設置されているので、フィルターを清掃する時は、専用のボタンを押して、細いワイヤーで、ユニットを下降させる仕組みになっている。
フィルターユニットは、1分ほどで手の届く高さまで下りてくる。あれ?あまり汚れていない・・・実はこの面は上面で、空気中の塵がつくのは裏面(下面)なのだ。この時はちょうど中休みで、3時間目が理科のクラスの子どもたちが何人も寄ってきて、興味津々に覗き込んできた。

「先生、何してるんですか?何か面白そう!」
「エアコンの掃除?あ、フィルターだ、これ」
「わー、スッゴ!ほこりだらけ!」
「もしかして、何か月も掃除してなかったんですか?」

最後のは、耳の痛い質問である。確か最後に掃除をしたのは、3か月も前だった。

 

これがフィルターの裏面である。3か月分の空気中の塵を集めたのだから、大変な「積もりよう」である。これだけ積もれば、効きが悪いのは当然である。
フィルターは塵を効率よく集められるように、凹凸や波型になっている。全体的には白っぽい色をしている。このほこりの「正体」は何だろうか?奇しくも、見ていた子どもたちからも、その問いが発せられた。

「先生、そのフィルターのホコリの研究してみたい!」
「顕微鏡で見たら、ホコリが何かわかるよ、きっと。」
「今日の授業で見させてください!」

うーん、今は「ものの溶け方」の単元の学習中である。この単元と、エアコンのほこりは、一見無関係に見える。しかも、単元の指導計画にはなく、時間がない。しかし、私は子どもの思いを優先し、エアコンフィルターのほこりを研究させてみることにした。

(2)「ものの溶け方」との関連

「エアコンフィルターのほこり」と「ものの溶け方」は、一見関連性はないように見える。しかし私は、もう少しよく考えてみた。液体と気体の違いこそあれ、「透明なものに溶け込んでいるもの」をろ過する、という点では似ている。エアコンフィルターは、水溶液の実験で言えば「ろ紙」に相当する。つまり、空気中の「見えない浮遊物」を濾(こ)して、集める役割を果たしていると言えるのだ。
しかし一方で、5年生の理科で扱う価値を考えると、花粉の学習に大いに関連がある。花粉は、屋外だけでなく、室内にもたくさん入り込む。エアコンメーカーによっては、花粉の確実な除去を「売り」にしているところもある。花粉は見つかるにちがいない。

 

観察方法は簡単で、セロテープでフィルターのほこりを採取し、スライドグラスに貼るだけである。大切なことは、セロテープに指紋がつかないようにすること。指紋には夾雑物が多く、観察の邪魔になるからだ。また、フィルターのほこり以外のものも付着しないように、十分に注意させた。
こうして、さっそく顕微鏡での観察が始まった。倍率は40倍か100倍で十分であるが、結晶の観察とちがって対物レンズが水没する危険はないので、対象によっては400倍まで使わせてみた。

 

顕微鏡で見たフィルターのほこりは、雑多な物体の混合物である。繊維、植物体の一部、虫の体の一部なども見られるが、圧倒的に多いのが鉱物の結晶である。上写真にもたくさんの鉱物が見られる、は明らかに無色鉱物とわかる。恐らく石英の結晶だろう。
上写真のAは花粉のようなものが写っている。子どもが発見して、私がデジカメで撮影したものである。その後も花粉は続々と見つかった。Bは有色鉱物のようだ。恐らく輝石の結晶だろう。これらは、主として火山灰が由来ということになる。火山灰が巻き上げられて、再堆積してできた関東ロームと同じ鉱物が、室内の空気中にも多数浮遊しているという事実である。

(3)ほこりの中の「繊維」

エアコンのフィルターは、空気中の相当に小さな物体までキャッチすることができる。鉱物(砂ぼこり)の結晶に混ざって、花粉や胞子もよく見つかる。

 

たとえば上左の写真だ。鉱物の結晶ではない。しかし、人工物にも見えない。恐らく何かの花粉か胞子だろう。残念ながらその区別までは難しい。
もう一つ面白いと思ったのが、上右の写真のような青い繊維状の物体である。それも1本や2本ではなく、どの研究所(班)の顕微鏡からも続々と見つかった。繊維状の物体はほかにもたくさんあるが、圧倒的に青いものが多い。一体これは何だろうか?私はその正体に関する推理を、子どもたちに投げかけてみた。
教室内に多く、青い繊維状の物体・・・子どもたちはすぐに、自分たちが身につけている服を疑った。「疑う」という行動は、理科では大切である。この場合の「疑う」というのは、「結果や考察に疑義をはさむ」という意味ではなく、「これが正体かも知れない」と推理するという意味だ。子どもたちが着ている服は、標準服(制服)もトレーナーも青(紺色)が多い。

 

さっそく、男児がよく着ているトレーナーにテープを当てて、「サンプル」を採取してみた。
上右の写真がその顕微鏡像である。まさしくこれが「正体」であった。子どもの推理と観察事実が一致した一瞬と言える。興味深いのは、子どもが着ていたトレーナーの繊維からも、花粉や鉱物の結晶が多数見つかったことである。以下は、子どものノートの記述である。

「私は、エアコンのほこりに入っていたこう物や花粉は、まどから入ってきたのだとばかり思っていました。でも、服のせんいからもたくさん見つかったので、花粉やこう物を教室に持ち込んでいるのは、私たちなのかも知れないと思いました」

(4)さまざまな「ほこりの成分」

エアコンのフィルターに集まったほこりは、全体的には白っぽい色をしている。掃除機のパックに集まったゴミと、見た目は似ている。顕微鏡の光源装置(LED)をOFFにして、反射光だけで見ると、実際の色に近く、白っぽく見える。

 

掃除機とちがうところは、エアコンのフィルターの場合、空気中に浮遊する物体だけを集めている点である。前述のように、鉱物の結晶、花粉、衣服の繊維などが圧倒的に多い。しかし時には、意外なものが発見されることもある。
5年生は1クラスが28~29人なので、基本的には1人1台の顕微鏡を使わせている。しかし、この時は1台の顕微鏡に、子どもたちが殺到して、何やら歓声をあげている。何を発見したのだろう?

 

歓声の正体はこれだった。何かの植物の一部、恐らく種子か果実表面の刺(とげ)だろう。大きさは1mm以上あったので、これが長時間空中を浮遊していたとは考えにくい。
もっとはっきりした形状のものも見つかった。これは植物の果実の一部分(鞘のようなもの)だろう。
エアコンフィルターのほこりは、普通は厄介者扱いされる。しかし、立派な学習材になることがわかってきた。6年の環境関連の学習でも使えるだろう。

子どものノートから

「エアコンフィルターのほこりの研究は、すごくおもしろかったです。全部わたみたいなほこりだと思っていたら、花粉や種みたいのもあって、おどろきました。楽しい研究でした」
「エアコンが集めたほこりに、種子が混ざっていた。これも、誰かの服についていたヤツが、飛びちって、まざったのだと思う。要するに、部屋の空気は人間がよごしていることになる。」

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