場所:第1校舎2階 美術室
生徒:男子9人,女子19人
授業者:桐山 瞭子
ねらい
本題材は、中学校第2学年の表現の活動、工芸分野における木(桂材)を使った作品制作である。工芸作品は、材料そのものの質感を楽しみ、材料が持つ性質を、生徒自身が制作中に手で味わいながら理解し、学習していくことが大切である。特に制作においては、材料への理解と共に、完成した作品の使い手を意識してデザインを考えることが重要である。作り手である生徒たちは、使い手のことを考えた目的や機能性(良さ)、造形性(美しさ)を考えて作品制作することが課題となる。だが、目の前の生徒たちの学習する姿を踏まえると、見た目に明らかに表れてくる表現の活動においては、どうしても技術的に優れたものをつくり出すことを目指す傾向が強くなり、それが使い手のことを考える以上の価値を占めてしまうことが多くある。思春期にある中学2年生の生徒たちにとっては、完成に至るまでの制作も完成後の鑑賞も、周囲の目を気にすることで技術的に優れた作品を追い求めることを主立ててしまうからである。これまで実践した表現の活動では、特に絵の分野において、どの学年でもその姿が顕著に表れていた。しかし、本授業の実践を行う第2学年が1学期に制作した「身近な人を見つめて」と題して他者を描いた作品の鑑賞の活動では、これまでとは違った生徒の姿を見ることがあった。作品鑑賞時に教師から「この作品を描いた本人に見せたいと思うか?」と問いを立てると、作者である生徒たちから「上手くは描けなかったけれど、相手を想って描いたので、それを伝えたいから見せたいと思う。」といった答えが返ってくることがあった。つまり生徒たちにとって、作品の向こう側に自分が想う相手の存在があると、制作した作品には技術的に優れたものを生み出す以上の価値がそれぞれの生徒自身の中に生まれていくのである。
そこで本題材は、工芸作品の制作を通して生徒たちに使い手となる相手の存在を強く意識させたいと考え、「誰かのためのデザイン」と題した。生徒たち一人ひとりにとっての「誰かのために」を設定することで、技術的な面を満たすだけでは得られない、唯一無二の価値を作品の中に見出させていきたい。また、相手を意識し、自分の作品に必要なことを能動的に見出すことができるよう、制作の過程での振り返りにも深い意味を持たせたいとしている。
本題材は、表現の学習活動を行う大前提として相手の存在を意識させ、相手を想った作品の制作にすることで、生徒一人ひとりが設定した相手と自分との間にしかない目的やデザインが生まれることをねらいとしている。このことで、題材の明確な主題を見出させ、それぞれの生徒ならではの価値を生みだすことにつなげていきたい。
本題材での探究的な学習
本題材において、生徒たちが自ら探究的な学習をするために特に重要なのは、作品を制作する上で設定した“相手の存在”が、作品のデザインを決定する際に大きく影響していることに気づくことである。生徒たちは学習の中で扱う材料を知り、それが手渡された時点から各々のイメージを思い浮かべることになる。だが、そこにその生徒自身にしか発想し得ない“相手の存在”を置くことで、デザインの決定から制作の工程全てにおいて、その生徒にしか見出せない価値を考えることとなり、探究的な学習の創出へとつながる。
生徒たちは、制作に数か月という長い期間をかけて向き合うものの、他にも常に多くの課題に向き合う現実がある。週1時間という限られた時間で制作に向き合うには個々の工夫を要する。そのため毎授業の活動や振り返りを意味あるものにするための教師側の題材設定の工夫が重要である。特に本題材のような長期的制作時間を要する工芸分野の作品ならば、生徒たちがその目的や機能を踏まえたデザインを考えていくだけでなく、明確な主題創出につながる課題設定することが必要だといえる。このことで、生徒たちそれぞれにとっての深い意味が込められた機能性やデザイン性が生み出される。作品の向こうに思い浮かべる他者を意識することは「この材料はこんなことができるからあのデザインにしてみよう」や、「このやり方ではイメージが叶わないから、方法を変えてみよう」など、生徒たちが目的のために能動的・発展的に学習し、探究的な学習につながる。
題材の展開 (本題材と並行して前課題の「身近な人を見つめて」作品鑑賞会を毎時間行う。)
第1時 木をつかった工芸作品制作の導入・ワークシートにアイディアスケッチ
第2時 桂材にアイディア下描き・制作手順の学習
第3時~5時 使用道具の学習・作品制作
第6時 “誰のためのデザイン”か、“なぜそのデザイン”かの共有・作品制作(本時)
第7時 振り返りと次回の制作を見据えた目標立てに重点を置いた作品制作
第8時 現段階での作品相互鑑賞・作品制作
第9時 作品の仕上げ
第10時 作品相互鑑賞会(プレゼンテーション形式)
5 本時の学習
(1)本時の目標
①これまでの活動を振り返りながらデザインについて考え、作品をつくる相手への意識を深める。
②友達との意見交換から、相手を想ったデザインに対する様々な考えを知り、表現の視野を広げる。
(2)本時の展開(探究の過程)
本時開始前より、前課題「身近な人を見つめて」作品鑑賞会を行う。
主な学習内容と活動 | 指導上の工夫・配慮 | |
課題設定 | ・自己の制作の活動をワークシートなどから振り返る。
・“誰のためのデザインなのか?”の問いについて考える。 ・学習班(3~4名)になり、作品が“誰のためのデザイン”で、“なぜそのデザイン”なのかを伝え合う。 ・お互いの考えや想いを知った上で意見交換する。 |
・それぞれの生徒が相手を想ってデザインしていることに触れ、その価値を考えることに重点を置くことを意識させる。
・班のメンバーのデザインの工夫で良いと思うことがあれば、発表させる。 |
課題追究 | ・班のメンバーの考えを聞いたり、意見交換をしたりした上で、デザインを再考する場合はワークシートに記入する。
・学習班で意見交換したことや、前時に記述したワークシートの目標を踏まえて作品制作を続ける。 |
・自分が選んだ相手にこそデザインできるもの、必要だと思うことを改めて考えながらの制作になるように促す。
・作品をつくる相手だけでなく、自分の想いにも目を向けた制作となるよう伝える。 |
省察 | ・本日の活動を経て、相手を意識したデザインの意味やその想いを知り、今後の自分の制作に見通しを持つ。
・ワークシートに活動の振り返りと次回の目標を書く。 |
・作者の想いを知ることで、技術的な面だけでない作品の価値や、使い手を考えたデザインの価値を伝える。
・学習班の活動を経たことで制作に変化が見られた生徒にはその内容を発表させる。 |
(3)本時の評価
①これまでの制作を振り返り、改めて相手を意識したデザインについて考え、今後の見通しを持てたか。
②友達との意見交換から、デザインに対する様々な思いや考えを知り、表現の視野を広げられたか。